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聴講メモ: Gas, Guns, and Governments
“Gas, Guns, and Governments: Financial Cost of Anti-ESG Policies“
UoSCのFinanceセミナー。ESG-friendlyな経営方針を掲げる金融機関を地方債(municipal bonds)業務から締め出したテキサス州の規制が、同州の地方債発行市場に及ぼした影響について実証した論文。主要な結論は以下:
・発行価格(offering yield)をオークションではなく相対(negotiated offering)で決める案件数が増加。規制によって起債の不確実性が高まったため。
・発行価格が上昇。規制によってテキサス州の地方債業務に携わっていた主要金融機関が締め出され、金融機関の競争が低下したため。
規制の対象となった金融機関はCiti, JP Morgan Chase, Goldman Sachs, Bank of America, Fidelity Capital Marketsの大手5社。いずれも、石油・ガス企業、銃販売企業への融資抑制を経営方針としていた。規制の導入にあたりテキサス州のAbbott知事は「Boycott Texas Oil, and Texas will boycott you」と発言したらしい。
個人的には、報告者がアメリカのmunicipal bondsについて詳しく説明してくれて興味深かった(隣に座っていた院生は実証分析のmethodologyに関する議論が少なかったことが逆に不満だったようだが…)。発行体は、州政府、より小規模な地方自治体、空港(Dallas Fort Worth Airportとか)など多様で、毎月起債している発行体も多い由。パネルデータを構築していたが、cross-sectionでもtimi-seriesでもvariationがあることもあり、様々な角度から結論の頑健性を確認していた。ただし、報告では、規制導入前の5社合計の市場シェアが3~5割程度と大きかったことから、金融機関の競争がなくなったことを発行価格上昇の要因としてあげていたが、消去法での推論との印象を持った。発行価格上昇の要因分解(back-of-the-envelop calculation)を行っていたが、83%が不明とのこと。
アメリカはまだ学期途中だが、私がUoSCのセミナーを聴講するのは今回が最後。いろいろと勉強になった一年だった。今回の報告もそうだったが、(1)何か外生的なショックをみつけてDID, triple DIDで分析する、(2)granularなデータを使って様々な固定効果をコントロールする、(3)頑健性チェックを念入りに行う、といったあたりが共通する特徴のように思った。また、タイムリーな分析が多いのも特徴かもしれない(今回の報告の場合、テキサス州で規制が導入されたのは2021年)。直近では、Silicon Valley Bankの破綻をめぐって既に多くの論文が出ており、腰の重いわが身を反省。
Last update: 2023.03.24