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聴講メモ: Executive Visibility: A Worthwhile Investment or a Futile Pursuit?
“Executive Visibility: A Worthwhile Investment or a Futile Pursuit?“
秋学期が始まり、U of St AndrewsのFinanceセミナー再開。今回は3回目(1回目はセミナーが再開されたことを知らず聞き逃してしまい、前回は私が報告の機会を頂いた)。
SPAC (Special Purpose Acquisition Companies)のexecutive visibility(スポンサー/創業者の知名度)が、IPO時とその後実際に買収を行う時の資金調達に及ぼす影響に関する実証論文。SPACは未公開会社の買収を目的として上場する会社だが、IPO時にはどの会社を買収するかが不明なので、資金調達のために著名人がスポンサー/創業者に名を連ねることが多い。そのvisibilityが、SPACのパフォーマンスのシグナルなのか、それとも資金調達のためのマーケティングツールなのかを明らかにすることが論文の目的。
主な分析結果は以下:
(1)visibilityが高いSPACはIPO時の資金調達額が大きく、IPOまでにかかる時間が短い。IPO後、2年以内に買収が行われるが、visibilityが高いSPACは買収提案について既存株主の賛同を得やすく、また新たな株主から調達する資金額も多い。
(2)SPACの長期的な株式リターンはvisibilityと無相関。
(3)買収のアナウンスから完了までの投資家の株式売買を主体別にみると、機関投資家はvisibilityの高いSPACに投資するが、リテール投資家はvisibilityに反応しない。機関投資家は、しばらくvisibilityの高いSPACに投資した後は売却に転じ、完了時にはネットで売却超。リテール投資家は、機関投資家に追随してSPACに投資し、完了時も購入超。
(1), (2)からはvisibilityがSPACのマーケティングツールに過ぎないことが示唆される。(3)からは、機関投資家の投資行動がリテール投資家に影響していること、機関投資家がリテール投資家に対する情報優位を生かしてリターンを得ていることが示唆される。
executive visibilityはスポンサー/創業者の内生的な行動の結果なのでcausalと言えるか疑問に思ったが、セミナー後に尋ねたところ因果関係を識別することは目的ではないとの由。新たな事象の実態を明らかにすることをセールスポイントにしているということかもしれない。昨年UoSCで聴講したヘッジファンドのshort campaign論文と似たtasteの論文のように感じた。
Last update: 2023.10.11