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雑感:Too few finance researchers

8月にバルセロナで開催された欧州経済学会(2023 EEA-ESEM congress)に参加した。目を引いたのは、Financeのセッションが多くあったこと(400弱の論文報告セッションのおよそ1割)。一方、9月に開催された日本経済学会では、23セッション中、金融は1つだけだった。日経学会で多かったセッションは、労働(5)、産業組織(3)だが、EEAでは、Financeのセッション数はLabor Economicsと同じであり、Industrial Organizationを大きく上回る。

日本の大学で金融の人気がないのは、研究者だけでなく学生も同じだ。現在滞在しているUniversity of St Andrewsでは、最近組織再編があり、新たに創設されたBusiness Schoolの下にManagement、Economics、Financeの3学科が置かれている。日本の大学で、金融学科が経営、経済と並置する姿は想像しにくい。中大商学部は金融学科のある数少ない大学の一つだが、学生数は他学科(経営、会計、マーケティング)に比べて大きく見劣りする。他方で卒業生の就職先を見ると、多くの学生が金融機関に就職している。

学問としての金融の人気が、日本で高まらないのはなぜか。以下、想像の域をできないが、いくつか考えられる理由。

(1) 金融教育の差:金融広報中央委員会の「金融リテラシー調査」によると、日本で金融教育を受けた人の割合は7%であり、米国の20%を下回る。中高生が、身近な場で金融について考える機会があるかどうかは、金融のとっつきにくさを軽減するうえで重要な気がする。

(2) 日本の大学のグローバル化の遅れ:U of St Andrewsでfinanceに関心をもつ学生は、新興国や発展途上国出身の留学生が多く、イギリス人学生の比率は相対的に少ないそうだ。金融の発展と経済成長の関係を調べるFinance and Growthと呼ばれる研究分野では、“Too much finance”(金融システムの発展は経済成長を促進するが、一定の段階に達すると、逆に金融の量的拡大は経済成長にマイナスの影響を及ぼす)という議論がある。学生が、自分の母国にとって重要な研究領域に関心を持つのは自然なことであり、日本の大学が新興国・発展途上国の留学生を積極的に受け入れることが、結果的に、金融の研究者のすそ野を広げることにつながるかもしれない。

(3) 実務経験をもつ「研究者」が少ないこと:アメリカやイギリスの大学のfinance研究者のなかには、金融機関での実務経験を持つ人が少なからずいる。彼らが研究者に転じた理由はまちまちだが、キャリアの途中で退職し、研究者を志して大学院に進学した点は共通している。一方、日本の大学の場合、実務家出身の大学「教員」はいるものの、研究者としての教育を受けて学術研究を行う人は少ない。金融のように実務と学術研究の距離が近い分野では、キャリア形成の多様性や選択肢が乏しいことが研究力に及ぼす影響は大きいのかもしれない。

U of St Andrewsでは、「日本人のファイナンス研究者を学会やセミナーでみかけることはほとんどない」という話も聞いた。日本の大学の研究力の低下は金融に限ったことではないが、耳が痛い。アメリカやイギリスの大学では、研究を行うresearch trackの教員と教育を担うteaching trackの教員とで、研究と教育の比重が異なる。日本の大学では、こうした区別はほぼなく、研究面でも教育面でも、組織全体の生産性を低下させているように思う。

ブログを書く時間があれば研究しろ、ということかもしれないが。

Last update: 2023.10.09

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