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雑感:スコットランドの民間銀行券
スコットランドでは3つの民間銀行が発行する銀行券が流通している。たとえばRoyal Bank of Scotlandの銀行券には、亡きエリザベス女王ではなく、スコットランドゆかりの女性たちの肖像が描かれている。イングランド銀行の統計によれば、イギリス全土でみたスコットランド民間銀行券の流通高は、イングランド銀行券流通高の0.1%以下だが、個人的な経験では、St Andrewsのスーパーマーケットで現金で支払うと3~4回に1回の割合でお釣りに民間銀行券が混じっている。
日本では、日本銀行が通貨発行益(無利子の負債である銀行券と引き換えに保有する国債などの資産からの利息収入)を得ているが、スコットランドでは民間銀行が通貨発行益を得ているのだろうか?少し調べてみたところ、当然ながら、そんな単純な話ではなかった。
銀行券を発行するスコットランドの民間銀行は、その裏付け資産として、自行の銀行券流通高と同額をイングランド銀行券、硬貨、またはイングランド銀行預金で保有することが義務付けられている。これは、発券銀行が破たんした際に、当該銀行券の保有者を保護するためとのこと。無利子のイングランド銀行券や硬貨を保有しても通貨発行益はゼロなので、逆に銀行券発行に係るコスト分だけ損失が発生しそうだ。
ただし、イングランド銀行に預けている預金は付利されるので通貨発行益が生じる。市中に流通している銀行券の6割はイングランド銀行券・硬貨で保有することが義務付けられているが、残りの4割はイングランド銀行預金での保有が認められている。また、引き出しに備えてATMや店舗にある銀行券については、すべてイングランド銀行預金を裏付け資産とすることが可能。
では、通貨発行益は銀行券発行に係るコストよりも大きいのか?コストが分からないので憶測にすぎないが、インフレにより政策金利の引き上げが始まる前の2021年ごろまではコストの方が大きかったのではないかと思われる。発券銀行がイングランド銀行に預けている預金には政策金利分の利息がつく。世界金融危機のあった2009年から2021年にかけて、イギリスの政策金利は0~1%の低水準で推移していたので、通貨発行益は微々たるものだったと推測される。また、スコットランドと同様に民間銀行券が流通している北アイルランドでは、2020年にFirst Trust Bankが「商業的な理由」により銀行券の発行をやめている。
金融政策が引き締めに転じた2022年以降、通貨発行益は大きく増加したとみられる。スコットランド民間銀行券流通高とイングランド銀行の政策金利から試算すると、2022年の通貨発行益は前年の10倍程度になったようだ。それでも3つの発券銀行の純金利収入の0.4%に過ぎないので、採算が取れないかもしれない。
キャッシュレス化の流れも踏まえると、今後スコットランドでも銀行券の発行をやめる銀行が出てくるかもしれないが、民間銀行券はスコットランド固有の歴史に根差したもののようでもあり、案外しぶとく続く気もする。
Last update: 2023.07.03