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聴講メモ: Ownership concentration and preformance of deteriorating syndicated loans
“Ownership concentration and preformance of deteriorating syndicated loans“
UoSCのFinanceセミナー。アメリカのシンジケートローンの融資レベルのデータを用いた実証論文。規制監督上の格付け(regulatory ratings)が「要注意先(special mention)」以下に低下して流通市場で売買された債権について、金融機関別のローン保有シェアがどう変化したか、保有シェアの変化がその後の条件変更や融資の行内格付(internal ratings)にどう影響したかを分析。主要な結論は以下:
・監督格付けの低下後、銀行、CLOの保有シェアが低下し、ミューチュアルファンド(MF)、ヘッジファンドのシェアが上昇(※この論文のMFは、一般投資家が売買できるいわゆる投資信託ではなく、より広義のprivate fundとのこと)。保有シェアが上昇したMF、ヘッジファンドは、融資の組成段階では保有せず、流通市場で新たに債権を購入したケースが多い。また、債権者数は減少し、保有シェアの集中度(ownership concentration)が上昇。
・集中度の上昇は、条件変更が困難な(キャッシュフローのボラティリティが高い、有形固定資産が少ない、R&Dが多い)企業でとくに観察される。
・集中度の上昇は、その後の条件変更、行内格付けにプラスの影響。この効果は、上位保有者が幹事行(arranger)や不良債権(distressed loan)に特化した金融機関以外の「不慣れ」な金融機関の場合に大きい。不良債権のリストラクチャリングにおいて、集中度の上昇と金融機関の専門性が代替関係にあることを示唆。
融資の集中度は、再交渉(renegotiation)、条件変更の成否の要因の一つとして昔から議論されていたが、分析対象はもっぱら銀行であった。再交渉に柔軟に応じられることが銀行融資の比較優位の一つとされてきたためだが、銀行以外の金融機関について新たなfact findingsを行った点がセールスポイントとのこと。個人的には、アメリカのシンジケートローン市場の最近の状況を知ることができた点でも有益だった。たとえば、流通市場が発達していることや、銀行以外の金融機関がメインプレーヤーであることは知っていたが、本論文で分析対象としているterm loanの場合は投資適格以下の企業が大半であること、引き当てが必要とされないspecial mentionの段階から銀行が早々に売却することなどは、意外な事実だった。また、条件変更は個人的に関心(&在庫)があり、最近の研究動向を知る上でも参考になった。
四半期別の融資レベルのデータを利用しているため、観測数は大きく(最大66万)、様々な固定効果(loan, time, arranger-year, industry-year)をコントロールしている。また、集中度の上昇が条件変更等に及ぼす影響については、集中度に関する操作変数(IV)を用いた推定を行っているが、IVがrelevance condition, exclusion conditionを満たしているかどうかをチェックするなど、手堅い分析だった。
Last update: 2022.11.18