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聴講メモ: Women in the Financial Sector
“Women in the Financial Sector“
UoSCのFinanceセミナー。男女の賃金格差は金融業において他産業よりも大きいか(相対賃金ギャップ)、相対賃金ギャップがあるとすればその要因は何か、昔よりも縮小しているのか、をイギリスのemployer-employeeレベルのパネルデータ(1997-2019年)を用いて検証した実証論文。主要な結論は以下:
・金融業の男女賃金格差は他産業よりも大きく、相対賃金ギャップが存在する。
・相対賃金ギャップの要因を、企業(employer)要因と従業員(employee)要因に分けると、後者の方が大きく、従業員の属性をコントロールすると相対賃金ギャップはほぼなくなる。女性にとって金融業で働くことのコストが大きいため、sortingが生じていると解釈。こうしたsortingが大きいのは、金融業のなかでも銀行、働き方の柔軟性が乏しい業務(occupation)、高スキルの業務、子育て支援策のない企業、女性取締役比率が低い企業(企業文化の代理変数)。
・相対賃金ギャップは時系列的には縮小している。大学院で金融を専攻する女性や金融業で高skill職務に就く女性の増加率は他の学問分野・産業よりも大きいため、sorting mechanismと整合的な結果。また、金融業の男女賃金格差の縮小を目的としたイギリス政府の政策(name and shame政策)も寄与。
ここ数年、LaborやInequalityに関連するFinanceの研究が増えている(たとえばこれ)が、日本ではこの分野の研究をみたことがなかったため、興味深く聴講した。賃金格差の要因を実証する方法として、Card et al. (2016)の“two-way” firm-worker fixed effectsを知ったのも収穫。ただし、企業固定効果と従業員固定効果を識別するには、勤務先企業を変更する従業員が分析サンプルになるので、労働移動が乏しい日本では、仮にデータがあったとしても識別が難しいかもしれない。
なお、女性が働きやすい企業文化の代理変数として女性取締役比率を使っている点はトートロジーのようにも感じた(企業文化の測定は難しいが)。また、第1回目のUoSC Financeセミナーで指摘されていた“queen bee” syndromeがある場合、符号が逆になる可能性もあるように思った。
Last update: 2022.09.30