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聴講メモ: The Impact of Money in Politics on Labor and Capital

The Impact of Money in Politics on Labor and Capital: Evidence from Citizens United v. FEC

UoSCのFinanceセミナー。企業による政治献金が労働分配率に与える影響に関する実証論文。献金する企業(=資本家)寄りの政策がとられて資本分配率が増えるのではないか、というシンプルな予想とは逆に、労働分配率が上昇するとの結果。

実証方法は、アメリカの判例と州レベルのheterogeneityを利用したDID。2010年のCitizens United v. FEC裁判までは、企業が政治献金することが、連邦法では禁じられ州法ではまちまちだった。2010年裁判により、政治献金がすべての州で解禁された。2010年裁判まで州法で禁じられていた州をtreatment, 禁じられていなかった州をcontrtolとして、2010年前後を比較したDID推定を行っている(Post*Treatmentの係数をみている)。 分析単位は州・年で、主なoutcome変数は、政治競争の変数として選挙結果(現職落選率)、経済変数として州所得と労働分配率。政治競争の激化→規制緩和→経済成長→労働分配率の上昇、というトリクルダウンが働いたと解釈(DIDなのであくまで相対比較ではあるが)。

いくつかの点で、最近の論文のスタイルだなと感じた:
・発表手順として、最初に結論を示唆するシンプルなグラフ2枚を提示。
・分析手順として、最初にstylized factsを固め、メカニズム(因果)については最後に論じる。仮説→検証ではない。
・stylized factsを固めるために、robustnessのための推計をいくつも行う(→appendixの図表が本文よりも多い)。ちなみにフロアからの質問も、こんな可能性はないかというものが多かった(treatmentは化石燃料に依存した産業が多い州なので2010年前後の資源価格の影響を拾っているだけではないか、等)。
・mechanismについても、論文の結論とは異なるalternative storiesを一つ一つ反証。このため、やはりappendixの図表が多くなる。

「規制緩和→経済成長→労働分配率の上昇」については、エビデンスはなく、いわば消去法で解釈しているので、その点はやや物足りなく感じた。たとえばHsieh and Klenow (2009)の手法を使って、州レベルで資源配分の歪み(misallocation)がどう変化したかをみることはできないだろうか。また、DIDの結果は裁判1年後の違いが最も大きいが、経済変数がそんなに急に改善するかもやや疑問ではある。

個人的には、自分が博論を書いたときに読み込んだGrossman and Helpman (1994)や、当時世銀等で論争になっていた「汚職は経済成長を阻害するか」に似たtasteの論文だと思い、感慨に耽りながら聴講。

Last update: 2022.09.16

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